
緑が深くなり、田んぼには鷺が集いはじめた。朝は早く、夕暮れは長くなり、海の光もどこか柔らかい。
そんな季節に、Entôは開業から4年を迎える。
この節目にあたり、運営する株式会社海士の代表として、また一人の島の住人として、これまでの歩みと感じてきたことを綴る。
見えないところで芽吹いてきたもの。その時間をともにしてくれたあなたへの感謝を込めて。
文:青山 敦士(株式会社海士 代表)
思い返せば、この4年は旅人との出会いの連続だった。誰かのひとことや、ふとした表情が、私たちの背中を何度も押してくれた。

忘れられない夜がある。焚き火を囲んでいたとき、ゲストの一人がふいにウクレレを手に取り、歌いはじめた。静かに火がゆれて、言葉のいらない時間が流れていった。Entôは、こうした瞬間に満ちている。誰かの旅と私たちの日常が交わる、小さな交差点だ。

この島に宿が生まれて半世紀。株式会社海士が設立されて33年。
そして、「泊まれるジオ拠点 Entô」が開業して4年が経った。
4歳の子どもが転びながらも走る楽しさを知っていくように、私たちもまた自分たちの足で立ち、歩き出してきた。
建築やデザイン、地域づくりやジオパーク。さまざまな切り口から、この場所を見つめてくださった方々がいる。全国各地にパートナーができ、私たち自身が気づかない場所でも応援してくれている人がいる。
そんな外部からの目線と、当事者である自分たちは、どうしても「もっとうまくできるはずなのに!」「なんでこれができないんだろうか!」という4年目の葛藤や日々の課題との苦悩の間に揺れ動いた1年だったようにも思う。

開業当初から"泊まれるジオパークの拠点施設"として、ホテルとは何かを問い続けてきた私たちは、この1年で改めてホスピタリティや食、 室礼といったホテルの本質に立ち返った。



その過程で、自分たちが本当に伝えたいものが見えてきた。
Entôの休館日。若手の発案で、スタッフたちが畑や海へと繰り出した。


島をあらためて味わい直す時間。そこで見せた、のびのびとした表情の奥には、ほんとうに届けたいと思うものがあった。
島に住んでいても知らなかった、食材の食べ方やその物語。観てほしい風景、過ごしてもらいたい空気感。私たちが感じた喜びや驚きを、もっと素直に、もっと無邪気に、届ければよいのではないかと気づかされた。

ゼネラルマネージャーの伊藤を中心に、5年目のEntôが動き出している。そんな彼と若手スタッフたちもまた、真剣に遊ぶ。夢中で味わう。その愉しみを、あなたと共にする準備は進みつつある。

84年前、この島を訪れた俳人・加藤楸邨が詠んだ一句がある。
「隠岐やいま 木の芽を囲む 怒涛かな」
まさに日本海の荒波のように、新たな挑戦や課題が次々と押し寄せてくる毎日。だがその怒涛のなかにも、たしかに新しい芽吹きが生まれはじめている。
この島に。このEntôで。

あなたの旅と出会える日を。