船に乗って辿り着く、まるで異国のような遠島への旅。
遠く離れているのに訪ねる人が絶えない遠島には、どんな価値があるのだろうか。
Entô(エントウ)のゲストと島の価値を考えてゆく連載【わたしが遠島へ旅する理由】では、
島旅でしか味わえない特別な体験を紹介する。
前編に続き、島での予期せぬ出会いを楽しむ都築直義さん・香里さんご夫婦にインタビュー。
何度も足を運ぶその理由について
「予期しない繋がりみたいなものが、また島へ来たいと思わせてくれる」と、お二人は語る。
前編はこちら:
【わたしが遠島へ旅する理由】絶えず海を眺めている。その景色も含めての食事なんです|隠岐の島・観光|Entô Guest 都築直義さん・香里さん|05
文/白水 ゆみこ
写真提供/都築 直義、都築 香里
取材・撮影/佐藤 奈菜、藤井 晴朗
取材・編集/エドゥカーレ
「オープンマインドな凄い人だと思って、もう一発で惹かれちゃいました」
── 2度目のご来島時はすこし変わった過ごし方をされたと伺いました。
直義さん 初回の半年後、11月に伺いました。隠岐空港で降りて島後をぶらぶらしたのち、フェリーで夕方頃の到着でした。で、また夕食ですね!
(画面越しにたくさんの料理写真を見せていただきました)
直義さん 藤井さん(ダイニングスタッフ)との会話のなかで崎地区にあるみかん畑の話になり、「みかん農家の白石さんという方を是非紹介したい」って仰ってくださった。白石さんは当時、Entôの夜警をなさっていて、翌日、藤井さんが連絡を取ってくれてみかん畑を見学できることになったんです。
ただ、島の端にあたる崎地区までどうやって行くか、e-bikeではちょっと大変じゃないかって悩んでいたら、あっさりと白石さん本人が迎えに来てくださるという話になってですね。お言葉に甘えて、Entôまで迎えに来ていただいて、みかん畑を見学させていただいたんです。
── ワクワクする展開ですね。
直義さん その場でみかんを食べさせてもらって、畑をどう管理されているか色々なご苦労も伺いました。
とにかく白石さんは親切で気さくでした。見学後にはお宅までお邪魔して、お茶をいただいて。その間にもご近所の方が魚を持ってこられたり、昨日も白石さんのお宅で宴会をしていて、実は朝まで藤井さんも居たんだよという話を聞いたりね(笑)。
普段そうやって仲良く生活なさっていることが羨ましいというか、コミュニティがしっかりあることが印象深かったです。もちろん白石さんも藤井さんも島の外から来られているから、たぶん色々なご苦労があるでしょうけど、生活を含めて地域に根を張っていらっしゃるんだなと感じました。旅から帰ってきてから、白石さんのみかんを1箱注文してね。
香里さん そう、今年も注文しました(笑)。
直義さん 白石さんのみかん、美味しいんですよ! 白石さんのみかんは、ちょっと小さくて皮が薄くて食べると酸味と甘みのバランスがいい。こたつの上に置いておくみかんはこれだよね!という感じ。白石さんに出会えて、そして、みかんそのものにも出会えたっていう感覚なんです。
── 白石さんに興味を持たれたのは、どんなところだったんですか?
直義さん 白石さんの人柄です。初対面な僕たちに対して「Entôまで迎えにいくよ!」って直ぐ来てくださって。オープンマインドな凄い人だなと思って、もう一発で惹かれちゃいました。でも、普通のおじさんなんですけどね(笑)。
何もなくても充分。でも、やっぱり島に来るとなにかが起こる
── なんというか、おもしろい過ごし方をされていらっしゃいますね。
直義さん 昨年の夏、3度目の宿泊をさせていただきました。これまで6月、11月とお伺いして、まだ海士町の海に入ったことがなかったので、泳ぎたいという目的を持ってレインボービーチで過ごしたんです。
直義さん そういえば、その3度目の宿泊の時に白石さんが町会議員になったと聞いて、本当に大ニュース!ビックリしたというか、とても嬉しいというか……。島の方の人生の移り変わりを感じられて、なんだか海士町と心が通いはじめているような感覚になりました。
── こうして何度も来てくださっているお二人ですが、隠岐の島へ来られる前と後では旅にどんな変化がありますか?
直義さん また行きたいな、と思いますね。あまり味わうことのできない時間と空気感があるからです。妻も言うように、テレビがなかったり、自然の音を聴くことだったり、夜にカーテンを開けたまま眠って朝日が昇るのを感じたり、Entôに行くと、そうせざるを得なくなるんです。そんなことは、他の場所ではあまりないことだと思うんです。
── たしかに、夜寝るときにもカーテンはあえて開けたままにしておきたいですね。
直義さん そうなんです。そういったことを味わいたくなる。それと、藤井さんのような知り合いが島にできて、彼らにまた会いに行きたいなと思うんです。
藤井 料理を提供しながら生産者の方々の話をしているときに、「お客さん、誰か来てくれないかなぁ」と白石さんが話していたことを思い出したんです。おつなぎできてよかった。
直義さん そういう予期しない繋がりみたいなものが、また島へ来たいと思わせてくれます。
香里さん いまは藤井さんがよくお勧めしてくださる、島後にある隠岐酒造の見学に行きたいと思っているんです。Entôへ行くたびに、藤井さんが話してくれる話題から宿題を持ち帰るような感覚。楽しそうな宿題をしに、また島を訪ねて、藤井さんの話を聞いて、またここで過ごしたいなという気持ちになるんです。
直義さん 事前に勉強して旅先で過ごすわけではないので、行ってみて、そこで偶然出会う人や出来事が数珠つなぎになっていく感じですね。
── 予期しない出会いが隠岐の島にはあって、それを楽しみに来てくださっているんですね。
香里さん なにも無くても、十分だしね。
直義さん そうだね。でも……、やっぱり島に来るとなにかあるよね(笑)。
<あとがき/スタッフとの会話>
佐藤 今年の夏が4度目のご来島になりますが、なぜ何度も来てくださるんだろう?どんなところに魅力を感じてるんだろう?と、ずっと気になっていました。お話を伺ってみて、予定をあまり組まずに、その時々で起こる偶然の出会いを楽しむのにぴったりの場所が隠岐なんだなと改めて思えます。
直義さん そうですね。妻が話したように、生活や仕事に追われたり忙しくしたりしている日々をリセットするには最適の場所なんです。
直義さん これは褒め言葉なんですけど、隠岐の島はとにかく遠いでしょう? なおかつ何もないことやアトラクションの無さは、誰もが勧められて喜ぶかというと、きっとそうじゃないと思います。それでも、気持ちや日常をリセットしたいとか、何もせずに1日ぼーっと過ごしたかったり、イレギュラーな楽しみ方をしたりしたいなら絶対ここがいい!って言えますね。
佐藤 リセットするのにぴったりの場所かぁ……。それが聞けて嬉しいです。
藤井 じつは僕がEntôで働き始めて一番最初にペアリングを担当したのが都築さん達だったんです。
その後もこうして何度も島を訪ねてくださることになり、そのたびにペアリングを色々と試しながらブラッシュアップをしてきました。今日のお話を聞いているなかで途中もお伝えしたのですが、原点にこそ大切なことが詰まっているんじゃないかと思っていて。
ペアリングは一般的な食材との相性はもちろんありつつも、やっぱり都会では楽しめないことをご提供したい。僕たちが紹介するから面白いよね、隠岐ならではだよね、というものを組み込んだペアリングをしていく宿題をいただきました。
そうするほうがEntôのあのスタッフが面白かったね、という思い出になるし、そのスタッフを通じて予期しない繋がりが生まれていく。都築さんたちのように隠岐のことを好きになってもらうきっかけになれるような気がします。
直義さん そうですね。そういえば3度目の来島時に、8月にキンニャモニャ祭りがあると伺いました。聞けば旅行客も島の皆さんも、そこにいる人たちは全員参加できるお祭りだと教えてもらいまして。これは一度参加してみたいと思い、今年の8月に再びお伺いすることにしたんです。
── なんと、次は4度目の来島ですね。
藤井 この夏はキンニャモニャ祭りに合わせていらっしゃるので、白石さんの所属するチームでキンニャモニャ踊りに参加したらいいんじゃないでしょうか(笑)。
直樹さん あぁ、それはいいですね。ちょっと連絡しちゃおうかな?
・ ・ ・
船に乗って辿り着く、異国のように離れた遠島への旅。
遠く離れているのに、どうして何度も訪ねたくなるのだろう。
遠島には、どんな価値があるのだろうか。
「なにもなくても充分。でも、島に来るとなにかが起こる」
「白石さんに出会えて、そして、みかんそのものにも出会えたっていう感覚なんです」
きっとそれは、ある人にとって、島でなにかが起こる予感なのだ。
日常では味わえない時間と空気感。
予想もしなかった出会いから、それぞれの物語はあらたな展開へと続いていく。
Entôが大切にしている価値観を都築さまに直筆頂きました。
私たちはゲストと共に、旅をきっかけに豊かさを巡らせていきます。
― text ―
白水 ゆみこ(しらみず ゆみこ)
福岡県出身。2017年から約4年間、熊本・黒川温泉にある老舗旅館で仲居として働き、宿を通じて旅人が土地と交わることに魅力を感じる。観光のその先を探しに、2021年飼い猫と海士町へ来島しEntôを運営する株式会社海士へ入社。尊敬する人は土井善晴氏。飲み屋のカウンターで初対面でも話し込むタイプ。島での暮らしを、食と言葉で表現するひと。
― Interview/photography ―
佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。暮らしのなかで撮るふとした写真と言葉のセンスは社内でも群を抜く。現在は主にマーケティング事業を担当。葛藤や悩み、楽しいことやチャレンジを惜しみなく全身で受け止め生きる柔軟な姿には、影響される人も多い。
藤井 晴朗(ふじい はるお)
島根県松江市出身。友人たちとの大学卒業旅行で隠岐を訪れ2022年春に来島。EntôDiningではドリンクペアリング開発などを担当。卒論ではアナゴのブランド化流通に触れ、こだわりが強く、気になることは納得いくまで調べて実践を繰り返す。その姿は研究者のよう。食を通じた隠岐の魅力の表現者として、食材の知識や島の味・調理法を探求し続けている。
― Interview/editing ―
小松崎 拓郎(こまつざき たくろう)
エディター。合同会社エドゥカーレ代表。茨城県龍ヶ崎市出身。渡独生活を経て、石見銀山に抱かれる町・島根県大森町で暮らしている。家族は妻と鶏二羽。