ジオとともに生きる 後編

21.07.29

ジオ

小俣 緑

ジオとともに生きる 後編

隠岐が考える「ジオツーリズム」とは

「大地の成り立ち」、「独自の生態系」それらに育まれてきた「人の営み」。それらは「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」の活動目的のテーマであり、大きな柱でもある。これらの貴重な地域資源を、ただ大事に保全するだけでなく、持続可能な経済活動や文化活動を進めていくために地域住民や事業者が活用し、そのことを通じて、隠岐の人々が地域への誇りと郷土愛を育み自ら語り伝え、ともに地域課題を乗り越えながら自分たちの手で自分たちの地域を元気にしていく。「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」の理念こそが、彼らの在りたい姿であり、隠岐の熱い決意なのだと、わたしは感じた。
では、隠岐はこれからどうやって、またどのような手段で、その在りたい姿を実現していこうとしているのか。地域の資源を活用しながら、守り、育み、地域の発展とともに次代へとつなぐ。彼らは、その手段として「ジオツーリズム」という道を選び、地域一体となって歩み出そうとしている。
いま、観光の世界では、「エコツーリズム」、「アドベンチャーツーリズム」、「酒蔵ツーリズム」というように、ツーリズムと特定のテーマを掛け合わせることで、国内外の観光客を誘致し、地域や産業を活性化していこうという動きがある。掛け合わせるテーマは。それこそ無限にあり、だからこそ、その選択自体が地域らしさやその個性を表現しているようにも思う。
また、それぞれのかたちには、決まった定義があるわけではないが、「ジオツーリズム」をしいて分かりやすく言うとすれば、地域が持つ大地の遺産に触れ、その成り立ちや歴史、文化を学ぶ旅、ということになるだろうか。
ただ、観光による地域の活性化は各地で展開されているものの、表面的にそのテーマ素材をなぞるようなやり方だけでは、地域を元気にすることも、地域課題を解決し、在りたい姿を実現することも難しい。流行りのテーマに踊らされることなく、それが自分たちの地域らしさや、描く未来を実現するための手段としてふさわしいのか、推進を後押しするものなのか、そして何よりも、その道を選び進むゆるぎない覚悟が地域や自分たちにあるのか。それがとても重要なのだとおもう。
なぜ、隠岐は「ジオツーリズム」なのか。それは、ここまで触れてきたように、島内に残る雄大な大地の遺産、そこで育まれた独自の生態系と動植物たち、そして、その大地の上で営みを続けてきた人々、歴史、文化。これら地域のアイデンティティともいえる多様な資源、地域自体の持続的な発展と、これから先の未来へとバトンをつないでいくことを考えたときに、地域外の人々との関係性やつながりが必要不可欠であるということ、そのためには「ツーリズム」の力がそのつながりや関係性をもたらすことを、彼らが深く理解しているからに他ならない。それは、いにしえから隠岐の人々が、ずっとそうしてきたように、とても自然な選択のように感じる。いわばそれは、地域住民が主役であるという「世界ジオパーク」の活動目的・理念という名の土壌に、「ツーリズム」の理念や力を取り込んだといえるかもしれない。それが、隠岐が考える「ジオツーリズム」だ。

新しい旅の価値と価値観が生まれる

ツーリズムは、外から来る旅人が新しい世界を発見する、刺激を受ける、癒されるというような単に一方通行の行為ではない。旅マエ、旅ナカ、旅アトと、内外の人と人とが旅の様々なシーンで触れ合い、関わり合うことで互いを理解し合ったり、外の人々が訪れることによって中の人々が、自分の地域に愛着や誇りを感じたりできる、双方向の知的な文化交流だ。その交流から、旅人も、そこに暮らす人も、そこで働く人も、そして何より地域自身が様々な恩恵を受ける。ツーリズムが持つその力を知っているからこそ、隠岐は彼らの「ジオツーリズム」というやり方で、地域の課題を乗り越えて、ありたい姿を実現しようとしている。
きっと、その姿は地域内の取組みにとどまらず、他の地域や各地のジオパーク自体の課題解決にも広がっていくだろう。さらに言えば、グローバルな視点でも、熱い視線が注がれる可能性もある。
ユネスコ世界ジオパークの国際的なネットワークでは、ジオパーク発展のために世界各国ジオパークの取組みやそれを通じた知見が定期的に集約され、共有されていく。隠岐の取組みもいずれそこに加えられ、ネットワークを通じて共有、世界に発信されていくだろう。
小さな島の挑戦は、日本をも飛び越え、地球の未来へとつながるそれこそ大きな挑戦とも言えるかも知れない。
地域の資源や文化をただ消費するような、古いビジネスモデルの時代は終わりを告げる。人々は多様な価値を求めて敏感にそれを感じ取り、新しい旅の目的を探し始めている。自分がその地域を訪れることで何を享受できるか、だけでなく、自分がその地域に何を与えられるか、ということも、きっとこれからは旅の新しい価値になっていくだろう。自分が旅をすることで、誰かや旅先の地域の力になる。それを叶える仕組みが、隠岐から生まれる予感がする。

旅の仕方、働き方、暮らし方。地球の片隅にぽつんと浮かぶこの小さな島が、いま、わたしたちに新しい価値や価値観を伝えようとしている。

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