【わたしが遠島へ旅する理由 #05】絶えず海を眺めている。その景色も含めての食事です|都築直義さん・香里さん

24.03.29

海士町 インタビュー

白水 ゆみこ

【わたしが遠島へ旅する理由 #05】絶えず海を眺めている。その景色も含めての食事です|都築直義さん・香里さん

忙しい日々を送っていると、ふと「日常から離れたい」「自然の中でリフレッシュしたい」と思うことはないだろうか。

そんな時におすすめしたいのが、島旅だ。

船に乗って辿り着く、まるで異国のような遠島への旅。

遠く離れているのに訪ねる人が絶えない遠島には、どんな価値があるのだろうか。

Entô(エントウ)のゲストと島の価値を考えてゆく連載【わたしが遠島へ旅する理由】では、島旅でしか味わえない特別な体験を紹介する。

今回の記事では、島の「食」を中心に旅を楽しむ都築直義さん・香里さんご夫婦にインタビュー。

何度も足を運ぶその理由は、たんなる美味しい料理だけではない。

「絶えず海を眺めている、その景色も含めての食事なんです」と、お二人は語る。

読み終えた後には、きっとあなたも島旅に出かけたくなるはず。

文/白水 ゆみこ
写真提供/都築 直義、都築 香里
取材・撮影/佐藤 奈菜、藤井 晴朗
取材・編集/エドゥカーレ

 

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隠岐の島は旅先としてぴったりな気がした

── 隠岐には何度も来てくださっていますよね。なにがきっかけでしたか?

直義さん 僕たちは旅行することが好きで、おまけに島で過ごすのが好きだということに気付きまして。最初は、リゾートといわれる海外へ行っていたんです。そのなかでも何度か離島へ行くことがあって、離島が好きだということを認識しはじめました。そんなふとした時に、妻がEntôを見つけたんです。

── ふとした時?

香里さん 宿泊予約サイトにEntôの特集が掲載されていたんです。ただ、遠くて隠岐の島まで行くのは大変そうだし、旅するのはちょっと難しいかなと思っていたんです。
でもそんな時、偶然にも「Entôを訪れていてすごく良かった」っていう知人の話しを聞いて、遠いけど、じゃあ行こうじゃないか!って。

── 国内旅行だと隠岐の島以外にも、行けるところはあったんじゃないでしょうか。

直義さん Entôのホームページなども拝見して、自ずと静かな場所だろうなと思いました。だって観光客がどっと押し寄せることは、物理的に難しいじゃないですか。

── はい。

直義さん 海外でもそうですけど、アクセスが限られているから、島に訪れる観光客の人口密度は高くなりようがないというのかな。それに、僕たちは観光地巡りをするような旅行は殆どしない。だからたぶん、島が好きなんです。ということで、隠岐の島は旅先としてぴったりな気がしたんです。

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ダイニングスタッフ・藤井との出会い

── 初回はどんなふうに過ごされましたか?

直義さん 電動アシスト付きのバイク(以下、e-bike)を借りて昼間に隠岐神社へ行って、パンを買って食べたりしつつ、夕方頃にEntôへ戻って、部屋でずっと海を眺めてました(笑)。

そのあとペアリング付きのディナーをいただいて、そこでダイニングスタッフの藤井さんと出会いました。

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── 藤井との出会い。

直義さん 当時はずいぶんと若くて綺麗な若者が出てきたなと思って、ちょっとびっくりしたんです。そして最初に言われたのが「あまり多くのワインをペアリングできない」と。

離島ということで仕入れにはいろいろな制約があったようなんですが、ワインの代わりに日本酒や珍しいみりんと合わせるという、めったにない組み合わせがあったりして、とても面白かった。

藤井さんが自分で考えて、こうしようと決めて、私はこれが面白いと思うんですけど、どうですか?って提案してくれる。よくあるパターンに抗うっていうのかな、勇気を持ってオリジナリティを出していくところに惹かれましたね。海士町のことをすごく愛してるというか、言葉の端々に地元愛に溢れている姿勢が伝わってきました。

藤井 都築さんがいつもとは違うことを逆に楽しんでくださったんですね。この方向性で、いいんだなぁ。

直義さん 藤井さんの勧め方がストレートかつ積極的で「じゃあちょっとそれトライしてみるか」という気持ちにさせてもらいましたよ。

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── 初回の滞在から、濃ゆいですね。

直義さん ちなみに2日連続でのペアリング付きディナーだったので、たぶん、藤井さんもだいぶ困ったでしょうね(笑)。

色々と思考を凝らしていただいて、わだつみの精(焼酎)や鳥取のスコッチ、最後にはまた、みりんをね。

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夜の隠岐神社、参拝へ

直義さん 食事のあと、夜の隠岐神社に行きました。暗闇が強烈に印象に残ってます。真っ暗のなか参拝して、宮司さんが祝詞をあげてくださった。これはかなり素敵というか……異空間に連れて行かれましたね。

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香里さん 後鳥羽上皇をお祀りした隠岐神社には歴史的なイメージがあったので、暗闇に佇んで、光がそこにだけあるという空間での参拝は、とても印象的でした。

直義さん 普段はもっと明るかったり周りに人がたくさんいたりするけど、そこには僕たちしか居なくて、特別感があったよね。

香里さん 蛍が境内の中にいたり、幻想的で。こういうアクティビティは離島ならではという感じがします。

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「絶えず海を眺めている。その景色も含めての食事なんです」

── ちなみに先程ディナーのお話を伺っていて気になったのですが、2日連続でペアリングを頼んでいただいた理由は何だったのでしょうか?

直義さん 初日のディナーがすごく楽しかったんですよね。

ただ、考えてみたらソムリエの方にとっては負荷がかかることだったなと思って、申し訳ないことをしたかもと(笑)。藤井さん、やっぱり大変なんですよね?

藤井 いやいや、気にされなくて大丈夫ですよ!いつも本当にありがとうございます。ただ正直言うと、当時の写真を見せていただきながら懐かしさとともに恥ずかしさを感じています。

── ちなみに、普段からお家で晩酌はされるのでしょうか。

直義さん 晩酌といわず、休みの日は割と早い時間からふたりで飲んでいます。

── 週末にお昼くらいからお二人でお酒を飲み始めるのと、隠岐へ来られてから飲むことの違いはあったりするものですか?

直義さん まったく違います。まず景色が違いますからね。EntôDiningは海に向かった全面がガラス張りじゃないですか。他のレストランで、そう味わえないことです。あの景色も含めての食事なんです。

絶えず海を眺めているというのが、視覚的な効果として大きいと思いますね。ビーチリゾートのように砂浜があって綺麗な海っていうのはよくありますけども、隠岐の海はちょっと違うじゃないですか。

色々な意味でフレンドリーじゃないというか、ちょっと厳しいというのかな。チャラチャラはしていない海(笑)。その海をずっと見ていられるほどの魅力があるから、EntôDiningで食事するのが好きなんですよ。

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船に乗って辿り着く、異国のように離れた遠島への旅。

島に在る暗闇やずっと眺めていられる景観こそ、遠島の価値といえるのかもしれない。

お二人の物語は後編に続く。



後編はこちら:
【わたしが遠島へ旅する理由】予期しない繋がりみたいなものが、また島へ来たいと思わせてくれる|隠岐の島・観光|Entô Guest 都築直義さん・香里さん|06

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Entôが大切にしている価値観を都築さまに直筆頂きました。
私たちはゲストと共に、旅をきっかけに豊かさを巡らせていきます。

 

― text ―
白水 ゆみこ(しらみず ゆみこ)
福岡県出身。2017年から約4年間、熊本・黒川温泉にある老舗旅館で仲居として働き、宿を通じて旅人が土地と交わることに魅力を感じる。観光のその先を探しに、2021年飼い猫と海士町へ来島しEntôを運営する株式会社海士へ入社。尊敬する人は土井善晴氏。飲み屋のカウンターで初対面でも話し込むタイプ。島での暮らしを、食と言葉で表現するひと。

― Interview/photography ―
佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。暮らしのなかで撮るふとした写真と言葉のセンスは社内でも群を抜く。現在は主にマーケティング事業を担当。葛藤や悩み、楽しいことやチャレンジを惜しみなく全身で受け止め生きる柔軟な姿には、影響される人も多い。

藤井 晴朗(ふじい はるお)
島根県松江市出身。友人たちとの大学卒業旅行で隠岐を訪れ2022年春に来島。EntôDiningではドリンクペアリング開発などを担当。卒論ではアナゴのブランド化流通に触れ、こだわりが強く、気になることは納得いくまで調べて実践を繰り返す。その姿は研究者のよう。食を通じた隠岐の魅力の表現者として、食材の知識や島の味・調理法を探求し続けている。

― Interview/editing ―
小松崎 拓郎(こまつざき たくろう)
エディター。合同会社エドゥカーレ代表。茨城県龍ヶ崎市出身。渡独生活を経て、石見銀山に抱かれる町・島根県大森町で暮らしている。家族は妻と鶏二羽。

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