島で過ごす時間を通じて、自分自身と向き合い、人生を見つめ直す特別な旅。
隠岐諸島にあるEntôが提案する「セルフウェルビーイング」プランは、忙しい日常から一歩離れ、心と体を解きほぐす唯一無二の時間です。このプランを手掛けたスタッフの一人・吉田雄太が、ゲストにどのようなひとときを届けたいと考えているのか、その思いを語ります。
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かつて宿は「旅人に問いかける」場所だった
「セルフウェルビーイング」プランのアイデアが生まれたのは、代表の青山との会話がきっかけです。
彼がEntôの構想を始めたとき、ホテルの起源について調べたところ、かつては巡礼が旅の目的だったことを知ったそうです。そして旅人は、巡礼中に訪れた宿坊で「これからどこへ向かうのですか?」と問われることが多かったそうです。その問いは、旅の目的地だけでなく、人生そのものに向けられたものでもありました。
「Entôもそんな“問いをなげかける場”にしたい」という青山の想いに、深く共感したメンバーでアイデアを形にしたのが、「セルフウェルビーイング」プランです。
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イランで気づいた「本当に自分が求めているもの」
なぜ「Entôを問いを投げかける場にしたい」という想いに個人的にも深く共感したのか、それは僕自身がかつて旅の中で自分に向き合う問いに出会い、生き方を見つめ直した経験があるからです。
それは、社会人3年目にイランを訪れたときです。
当時の自分は、東京で人材会社の営業をしていて、満員電車に揺られ、上司に詰められながら毎月のノルマの数字を追う日々を送っていました。そんなときに訪れたイランでは、人々が朝早くから仕事を始めて、午後には原っぱで家族や友人とピクニックを楽しんでいました。大切な人との時間を大事にするイランの人々の暮らしを目の当たりにしたとき、自分の中に「東京でのいまの生活を自分は本当に求めているのか?」という問いが生まれたんです。その問いは、それからの人生を見直すきっかけになりました。
都会のなかで研修を受けたり内省するよりも、異なる文化や空気感の中で旅をする方が、もしかしたら人生を大きく動かす時があるかもしれないと感じるようになったんです。
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海士町とEntôが持つ特別な環境
同じ問いでも、海辺で夕日を見ながら考えるのと、都会のカフェで横の人と40cmの距離で考えるのでは全く異なる体験になると思うんです。東京で働いていたとき、自己啓発本を読みながらカフェで人生のミッションを考えたこともありました。ただ、疲れ切った状態で、周りにたくさんの人がいる環境では集中もできず、どこから手をつければよいかもわかりませんでした。その経験からも、内省には海士町やEntôのような情報量が少なく日常から離れた特別な環境でおこなうことがとても重要だと僕は考えています。
このプランには「NAISEI NOTE」という問いが書かれたノートがセットになっているのですが、そのノートを開くのに、海士町中央図書館もおすすめの場所です。この場所に来るたびに好奇心が湧き、感性が開かれるのを感じます。こうした特別な環境の中で刺激を受けながら、自分自身に向き合う時間を過ごしていただきたいと思っています。
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小さな問いを積み重ねる重要性
僕自身、以前は「どう生きたいか」といった大きな問いに直面しても、答えが出せずモヤモヤして終わることが多くありました。だからこそ、このプランでは小さな問いを積み重ねることを大切にしています。
たとえば「昨日、どんなポジティブな感情を味わいましたか?」といった小さな問いから積み重ねていくことで、徐々に抽象的な問いにも答えやすくなりますし、最終的には「どう生きたいか」という問いに対しての解像度が上がるようになります。
また、問いに答える際には書くことを大切にしました。自分の思いを書き出す行為って、自分を承認する作業だと思うんです。ノートに書き出すことで心の中を表現できて、ネガティブな部分も含めて自分を受け入れ、「そう思っていてもいいんだ」と自分を承認できる。そうすることで、自分が本当に求めているものに気づけると思っています。
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対話が生む気づき
このプランでは、Entôのスタッフと対話する時間も用意しています。
自分の人生について初めて会う人に、しかもホテルのスタッフに深く語ることって、普通に生きていたらほとんどないことですよね。しかし、Entôではスタッフとゲストという垣根を越えて、人と人として繋がることを大切にしているので、夜に焚火を囲みながらスタッフと語りあう場をプランに組み込みました。
ゲストの方は、自分の内面に向き合う問いが書かれたカードを引いて、どう生きたいのかを考える。私たちはゲストの問いに対する答えやその背景をじっくりと聞きます。僕たちがそのように寄り添うことは、人生に何か気づきを得たいと思って隠岐に来ている方にとって、少しでもお役に立てるのではないかと思っています。実際に焚火を前にゲストの方と対話していると、ご本人も気づいていなかった願いや夢がポロッと出てくることがあります。心の奥に秘めている思いを聞いていると、自然と応援したい気持ちになります。
また僕たち自身もゲストの人生や葛藤に触れることで、多くの学びや気づきを得られるんです。子育てについての話はまだ僕が経験したことのない人生のフェーズなので、ゲストがどのような想いで子どもに向き合い、悩み、喜びを感じているのかを聞いたことは、これからの人生を考えるうえで大きな気づきでした。その話を通じて、自分の中に「もし自分が親になったらどうしたいのか」という新たな問いが生まれ、普段あまり考えないテーマに向き合うきっかけになりました。こうした関係性はまさに、Entôの目指す「seamlessなつながり」を体現するものだと思っています。
わたしたちが思い描いた「旅と内省」を掛け合わせたこのプランが、多くの人にとって人生を見つめ直すきっかけになることを願っています。
― Text / Photo ―
佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。暮らしのなかで撮る、ふとした写真と言葉のセンスで周囲を魅了する。現在は主にマーケティング事業を担当。葛藤や悩み、楽しいことやチャレンジを惜しみなく全身で受け止め生きる、情緒的で柔軟な姿に影響される人も多い。
― Interview / Editing ―
小松崎 拓郎(こまつざき たくろう)
エディター。合同会社エドゥカーレ代表。茨城県龍ヶ崎市出身。渡独生活を経て、石見銀山に抱かれる町・島根県大森町で暮らしている。家族は妻と鶏二羽。