キンニャモニャの夜、島が踊る – from staff 【コラム】

23.11.30

ジオ 海士町

白水 ゆみこ

キンニャモニャの夜、島が踊る – from staff 【コラム】

旅人と島人のあいだに交差するちいさな物語を綴る連載「トラベラーズNôte」。今年の夏から秋にかけて、心に残る島の営みを届けます。

― Text ―
白水 ゆみこ(しらみず ゆみこ)
福岡県出身。2017年〜2021年まで熊本・黒川温泉にある老舗旅館で仲居として働く。はじめて観光業に携わるなかで宿泊を通じた観光のその先を探しに2021年夏、飼い猫と海士町へ来島。Entôを運営する株式会社海士に入社。清掃や料飲部門などの宿泊事業に関わるマネジメントを経て、現在は社内全体のマルチサポーターとして活動中。島での暮らしを、食と言葉で表現するひと。

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Photographer:佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。島での暮らしを切り取る写真のセンスは社内でも群を抜く。現在はマーケティング事業とフロント業務を兼任。彼女にとって良きタイミングで髪色を変える習慣があり、最近は鮮やかなグリーンの短髪をなびかせている。

Model:佐々木 瑠奈(ささき るな)
宮城県出身。東北にある芸術系大学を卒業後、2023年4月に大人の島留学生として来島。Entôではフロントからクリンネス、港のレストランまでマルチに活躍中。独特なワードセンスは人を惹きつけ、ゲストと意気投合する姿が頻繁に目撃されている。実は“新卒の島暮らしvlog”をつくる隠れYoutuberの一面を持つ。

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隠岐諸島での見送りには紙テープが欠かせない

離岸するフェリーの中では見送られる者が、地上では島に残る者が、互いに色鮮やかな紙テープを持ち合う旅立ちの儀式がこの地域にはある。こういった場面ではよく、隠岐汽船の計らいで蛍の光が流される。

音楽は涙を誘うけれど、それにも増して巻かれていた紙テープが指先からどんどん伸びていく様は、別れそのものを可視化しているようで胸に迫るものがある。世間一般的な春先に限らず、短期滞在者の多い海士町では年間を通してこうした光景は珍しくない。

Entôが開業されてからこの2年間、たくさんたくさん見送ってきた。島留学生やインターン生、ゲストや友人たち、愛嬌ある俳句の先生、偶然に出会えた尊敬する本の著者。

いずれも不思議なめぐり合わせで島と出会い、旅立っていく。思い出という簡単な言葉では片付けられない記憶が、風になびく赤や黄色の一本一本に宿っていくような気がしてしまう。

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一番最後の見送りは10月最後の朝、同僚のひとりだった

20代30代のスタッフが多いなかで唯一、親子ほども年の離れた父のような存在の料理人。何十年と料理の世界で切磋琢磨し、美味しいや楽しいを全身で表現して目の前にいる人を笑顔にする人だった。

明るく陽気な振る舞いは、いつも自然体。ゲストからもファンの多い彼は、最後の挨拶で、すこし泣いた。日本海に浮かぶ海士町とは異なり温暖な気候の故郷へと帰っていく。

ラグビーで鍛えた身体の大きな姿はどんどん小さくなり遠ざかる。見えなくなるまで手を振り続けた。きっとまた会えるんじゃないかな、送り出す皆の笑顔がそう予感させてくれた。

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地域の和の中にいた、キンニャモニャ踊り

夏に開催された海士町大感謝祭では、両手にしゃもじを握り、町伝統のキンニャモニャ踊りを軽やかに披露する移住者の姿が溢れていた。

かなり練習をして本番に臨んだのだろう。それぞれに居住する地区の衣装をまとった彼らの姿は自然と地域の輪の中にいた。

若い移住者たちとその隣で何十年と身体に染み付いた手さばきの島民、なかには旅行者も混ざりあい、同じ音楽で1時間も踊り続ける。その光景を同じ輪の中、全身で感じた。

祭りの最後には海上で打ち上がる花火。目の前で大きな音と共に身体の中心にまで振動が届き、打ち上がる度に歓声があがった。

運動会のように地区ごとのブルーシートが沿岸を端の方まで埋め尽くし、そこから見上げる人々の豊かな表情が鮮やかに照らされる。
この島の夏の終わりにふさわしい、儚く美しい光景だった。

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新鮮な眼差しと小さな贈り物

今年わたしたちの会社には数名の大人の島留学生が在籍している。

4月からはじまった彼らの滞在は気付けばもう折返し地点を過ぎ、夏の終わりに中間発表を終えたところ。東京に渡って代表の青山とイベントに登壇した人、企業研修の受け入れ側として企画運営に携わった人もいれば、手付かずだった施設内の花壇を整備してわたしたちの拠点に彩りを添えてくれた人もいる。

新鮮な眼差しで島を見渡していて、意図せず周囲へ小さな贈り物を渡し続けてくれている。

春に同じスタートラインから歩きだし、島での暮らしを通じて、一人一人が自分の色や形に気付きはじめた。

滞在期間に終わりがあることから、どこか旅人の視点を持ち合わせている彼らの魅力が、共に過ごすわたしたちにもじんわりと浸透しはじめている。

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