
島で過ごす時間を通じて、自分自身と向き合い、人生を見つめ直す特別な旅。
隠岐諸島にあるEntôが提案する「セルフウェルビーイング」プランは、忙しい日常から一歩離れ、心と体を解きほぐす唯一無二の時間です。
前回は、約1年前に来島されたゲスト・田中拓海さんから、これまでの旅やEntôでの滞在を通して感じた思いや変化についてお話していただきました。
今回は、ご友人と一緒にEntôへ宿泊されたゲスト・白石絢子さんをお迎えします。プランを通じて体験した、この島でしか味わうことのできない問いや、未来の自分へ向き合った時間についてお話を伺います。
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写真提供/白石 絢子

帰り道に見上げた星空に、ちょっと泣いてしまいました。
── Entôは何をきっかけに知ってくださったのですか?
Instagramを見ている時にウェルビーイングに精通している方の投稿が流れてきて、その場所がEntôでした。投稿を見て、行きたいなと感じたのもありましたし、ちょうど今年、人生で初めての一人旅をしたんです。淡路島に行きました。それもあって、ほかの島にも行ってみたいなと興味が湧いていました。
最初はまた一人で行こうと思っていました。でも、ちょっとハードルが高く感じて。そこで友人を誘うことにしたんです。
── 見つけてくださってとても嬉しいです。隠岐で心に残っていることはありますか?
強く印象に残っているのは星空ですね。1日目の夜、島の飲食店からEntôへの帰り道に見上げた夜空に広がる星がきれいで、ちょっと泣いてしまいました。私は東京で生まれ育ったのですが、自然が好きなのかもしれないという、自分の新たな一面に気付けました。隠岐から東京へ戻った後も、空を見上げるようになったんです。冬だからなのか、東京の夜空にも、微かに星を見つけられるんですよ。
それに、朝の通勤途中などで風を感じられています。冬の季節はとても冷たいけれど、その温度にも幸せを感じたりして、感度が上がっているような気がしています。

── 普段はどんな暮らしをされていますか?
新卒からずっと不動産会社で働いています。喘息を持っているんですけど、4年ほど前に症状をこじらせてしまって、コロナ禍と重なる時期に約2年ほど休職をしていました。そのことで少し落ち込んだこともありましたが、自分で自分の人生を歩んでいきたいな……と考えはじめて。復職したあとはコーチングを学んだり、キャリアスクールに通ったり、色々と自己投資をしていくなかでEntôにも足を運ぶことになりました。内省や対話をしたいと考えていた自分にとって、ぴったりなプランだと思いました。
心の声を、そのままに。
── 星空が印象的だったと仰っていましたが、他にどんなことをしましたか?
一緒に来島した友人にレンタカーを運転してもらって、岬まで行きました。他に誰も居なくて、走り回ったり、ぼーっとしたり。子供の頃みたいでした。移動したのはそれくらいで、あとはひたすらNAISEI NOTEを書いてました。友人は散歩をしたり、自由に過ごしていました。
── 1日目は、NAISEI NOTEを通してどんなことを感じましたか?
思ったことを、そのまま書いていたと思います。心の声がそのまま出ているような。いま読み返すと「こんなこと書いてたんだ」ってちょっと驚きます。意識して書くというより、心で書いていたのかもしれません。うまく言えないのですが……。

── 意識して書くことと、心で書くことにはどんな違いがありそうでしょうか。
特別なことは何もしていないんです。でも、すごく満たされている感じがありました。「パワーを感じた」「ワクワクした」とか、そんなふうに、ただ自分が感じたことを部屋のテラスで書いている時間すら幸せで。それをそのまま書き留めていました。
── 普段から内省の時間をとっていると伺いましたが、Entôではどうでしたか?
普段の内省は、やりきれないまま終わることが多くて。モヤモヤを言葉にしたいのに、時間がなくて流れてしまう。Entôでは時間がたっぷりあって、島で過ごす中でひたすら思いを書いて出し切ったら、心がすっきりしていたんです。普段は忙しくて流してしまいがちだったり、目を向けられていなかったりした自分の声を受け止められたことが、普段の内省との違いだったのかもしれません。

未来の自分へ宛てた手紙の役割
── 初日だけで、そんなに深く自分と向き合えたんですね。NAISEI NOTEは、どこかに持ち歩いたりしましたか?
2日目のページに“お好きな場所で”と書いてあったので、港の2階で行きかう船を眺めながらNAISEI NOTEの問いに向き合いました。1日目は、ただなにもしない時間を楽しんで。2日目は、これから自分はどう生きていきたいのか、どう働きたいのか、少し抽象的ではあるんですけれど、そんなことをノートに書き残しました。
── 1日目とはまた違う向き合い方ですね。
たしか2日目の夕方ぐらいだったと思います。自分への手紙を書いたんです。部屋にあった紙とインクを使って、1年後の自分に宛てて。インクをつけて文字を書くなんて初めての経験でしたし、未来の自分を想像しながら言葉を綴るのがすごく楽しくて。
── この冬限定の特典ですね。文具店カキモリとコラボレーションした企画でした。自分に宛てた手紙を書くなんて、普段はなかなかしませんよね。実際に書いてみて、なにか変わったことはありますか?
1年後のためのスイッチというか、転換点になった感じがします。インクで書く、というのが良かったですね。
──(スタッフ・岡本)インクで書くと、紙との距離がぐっと縮まる感じがしますよね。ボールペンだと摩擦があって、ちょっとワンクッションある。でも、つけペンの滑らかさは、心の中の言葉をそのまま紙に落とせるような感覚があるんです。それを体験できたのかもしれませんね。
実は手紙を書くとき、紙にインクを落としてしまったんですけど、それも味だなと思って楽しんでいました。旅先での体験だからこそ、特別な時間になったなと感じています。

自分の純粋な声を聴く旅になったかもしれません。
── 旅を終えてからの変化はありましたか?
東京へ戻ってからは、ワークショップに参加をしたり、仕事でも新しいことに挑戦できたりしています。緑や自然が好きだなって気付いたから、風や香りにも興味が湧いて、アロマの講座にも通っているんです。
── すごい!旅が終わってからも、新しいことに挑戦しているんですね。
旅に来る前、「何かを得て帰りたい」と強く思っていました。色々な人と対話してみたくて、Entôのスタッフさんにも自分から声をかけてみたんです。普段の旅ではそんなことしないので、自分って意外と行動力があるんだ……という新しい発見にもなりました。
── これまでの旅や内省と比べて、海士町での滞在にはどんな意味があったと思いますか?
わたしのように自分を見つめ直したい人には、「なんにもない場所で過ごしてみるの、おすすめだよ」って言いたいです。海や自然をただ感じてみる。リトリートするのもいいですね。
人によっておすすめするポイントは違うと思いますが、海士町の旅は、きっと自分なりの気づきがある場所だと思います。

──(スタッフ・佐藤)今回はご友人と一緒に宿泊されていますが、ご友人との対話などで普段と違うところはありましたか?
チェックインの際に、たまたま友人と同じ問いのカードを引いたんです。「あなたのいいところはどこですか?」という問いだったと思います。
──(スタッフ・岡本)そうでした。自分で内省するのもいいですし、折角なのでお互いの良いところを言い合うと新しい発見があるかもしれないといった会話をしてチェックインを終えたと記憶していたんですが、実際にやってくださったんですね…!
高校からの長い付き合いの友人なんです。普段ならそんなこと、絶対に恥ずかしくて言わないんですけど、やってみました(笑) お互いに伝え合ってみたうえで、そう思ってくれているんだなという発見があったり。
私は内省を習慣にしていますが、そうではない友人の感想としては、こういう経験もありだね、面白いねと言ってくれて、連れてきた意味があったなと思っています。
取材の最中、今回の旅をきっかけにして、暮らしのなかで新しいチャレンジを始めていることなどを嬉しそうに教えてくださった白石さん。一緒に滞在されたご友人とも“問い”に向き合ったことや未来の自分へ手紙を綴った体験など、宝物を見つけたような笑顔が印象的でした。
いつの日かまた、この島で再会できることを願っています。

ここは、なにもないようで、大切なものはすべてある遠島の地。あなたの大切にしていること、取り戻したい気持ち。この遠い島で “じぶん”を知る旅へと出かけてみませんか。
― text ―
白水 ゆみこ(しらみず ゆみこ)
福岡県出身。2017年から約4年間、熊本・黒川温泉にある老舗旅館で仲居として働き、宿を通じて旅人が土地と交わることに魅力を感じる。観光のその先を探しに、2021年飼い猫と海士町へ来島、Entôを運営する株式会社海士へ入社。尊敬する人は土井善晴氏。飲み屋のカウンターで初対面でも話し込むタイプ。島での暮らしを、食と言葉で表現するひと。
― Interview ―
岡本 華歩(おかもと かほ)
三重県出身。都心での生活を謳歌した後、直感に従い離島や田舎を転々とする1年間を過ごす。2024年早春、Entôのコンセプトに惹かれ海士町へ。面接を終えたその日から移住し、現在はフロントスタッフとしてゲストを出迎える。最近のテーマは「ただ暮らすために生きる」。自炊をはじめ、釣りに草刈りと、日常に流れる時間を愛おしく味わっている。
佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。暮らしのなかで撮る、ふとした写真と言葉のセンスで周囲を魅了する。現在は主にマーケティング事業を担当。葛藤や悩み、楽しいことやチャレンジを惜しみなく全身で受け止め生きる、情緒的で柔軟な姿に影響される人も多い。
― Interview/editing ―
小松崎 拓郎(こまつざき たくろう)
エディター。合同会社エドゥカーレ代表。茨城県龍ヶ崎市出身。渡独生活を経て、石見銀山に抱かれる町・島根県大森町で暮らしている。家族は妻と鶏二羽。