自分と向き合う、引き算の旅

25.02.18

ジオ 海士町 インタビュー

:佐藤 奈菜

自分と向き合う、引き算の旅

遠い隠岐諸島まで足を運び、自分と向き合い、人生を見つめ直す旅。

なぜ私たちは、この島からそんな旅を提案するのでしょうか。それは、便利さに囲まれた現代では得がたい「引き算の旅」を味わっていただけるからです。

今回、「セルフウェルビーイング」プランの開発にあたり、監修いただいた藤代圭一さんに話を伺いました。この旅の重要なキーワードである“問い”について。

自分と向き合い、人生を見つめ直す時間をつくってみませんか。


▼これまでの「セルフウェルビーイング」プラン特集記事はこちら

「問い」が導く、本当の自分に出会う旅

【わたしが遠島へ旅する理由 #07】久しぶりに味わった鳥肌が立つような感覚|田中拓海さん

  

藤代 圭一

FUJISHIRO Keiichi

作家・コーチ
島根県の離島・海士町を拠点に、「問い」を通じて自分を知り、自分らしく生きるための学びを発信。
執筆やコーチングを行い、個人やチームの成長をサポートしている。
都市の喧騒から離れた自然豊かな環境で「問い」と向き合うことが、人生の本質に気づくきっかけになると考え、Entôの「セルフウェルビーイング」プランの監修も手がける。
著書に『私を幸せにする質問』『教えない指導』など多数。

藤代 圭一

FUJISHIRO Keiichi

作家・コーチ
島根県の離島・海士町を拠点に、「問い」を通じて自分を知り、自分らしく生きるための学びを発信。
執筆やコーチングを行い、個人やチームの成長をサポートしている。
都市の喧騒から離れた自然豊かな環境で「問い」と向き合うことが、人生の本質に気づくきっかけになると考え、Entôの「セルフウェルビーイング」プランの監修も手がける。
著書に『私を幸せにする質問』『教えない指導』など多数。

  

大切なものに気づいた沖縄への旅

「セルフウェルビーイング」プランの監修をするきっかけになったのは、私自身の経験にあります。20代後半、会社を辞めたものの、自分がどう生きたいのかまったくわからなくなりました。やりたいことも見つからず、答えのない日々。精神的にも疲れていた時期です。そこで思い切って沖縄へ1人旅をすることを決めました。

沖縄では、仕事終わりの夕日を楽しむ人たちを目にして、「こんな暮らしがしたい」と思ったんです。その瞬間、肩の力がスッと抜けていきました。

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それまで私は「誰かに認めてもらわないと」と他人の基準に合わせて生きていたので、沖縄での時間をとおして初めて「自分が大切にしたいものは何か?」に気づいたんです。それと同時に自分を知ることの大切さを学んだ旅でもありました。

その後、旅を重ねる中でたどり着いたのが島根県の離島・海士町です。海士町を訪れる人たちの多くも「自分が本当に大切にしたいことが見つかった」と口にします。この島には、自分にとって大切なものを再発見させてくれる不思議な力があるのではないかと感じました。そこで、私は心の声を聞くきっかけを提供できるような体験を作りたいと考え、「Life is Learningカード」を使ったツアーを企画。それが原点となり、「島で自分を知る旅」をテーマにした「セルフウェルビーイング」プランが生まれました。

「不便さ」がもたらす余白と自分を見つめるきっかけ

 

海士町は、必要以上にモノが揃っていないからこそ、立ち止まって考える時間が自然と生まれる場所だと思います。以前都会に住んでいた頃は、衝動買いをして一度も使わなかったものが多くありました。一方で、コンビニもスーパーもない海士町の生活は少し不便に感じることもありますが、その不便さによって生まれる余白が「自分にとって本当に必要なものは何か」と考えるきっかけを与えてくれるんです。

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実際、100年以上前にこの島を訪れた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)はこんな言葉を残しています。

“私は隠岐で、

強い力でその影響を遠くまで及ぼしている文明から

逃れているという喜びを味わい、

人間の生存にとって、あらゆる人工の及ぶ範囲を越えて、

自己を知る喜びを知ったのである。”

この言葉を知った時、海士町という土地が持つ力を改めて確信しました。

都会では、便利すぎる環境の中で自分の本心に向き合う機会がなかなか持てません。

でも、海士町は違います。本土からここに来るまで半日以上かかるからこそ、自然に心の鎧を脱ぎ捨てて、本当の自分と向き合えるんです。都会から遠く離れ、大自然の壮大さを身体全体で味わえるこの場所だからこそ、自分らしい生き方を見つけるきっかけが生まれるのだと思います。

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偶然が示す、今必要な問い

 

限られた3日間の中で「ここに来てよかった」と感じていただけるようにこだわったのは、チェックインや夜の焚火で、問いのカードを引くという偶然性を取り入れたことです。

一般的な自己理解を深める研修の場合、講師が参加者にあわせて内容を調整することができます。でも、このプランは「NAISEI NOTE」を使って、1人で問いに向き合っていただきます。体験内容が想定から大きく変わることはありません。

だからこそ、ゲスト自身が問いのカードを引くというプロセスに意味があります。どんな問いに出会うかはわかりませんが、その偶然性が、結果としてその人にとって特別な体験になると思っています。すべてが決まっていないからこそ、カードを通じて出会った問いは、その人の今必要なものだと信じています。

 

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言葉にすることで見える心の声

そして、その問いを通じてスタッフと対話していただきたいのです。自分の考えを外に出してみると、不思議と「そうだな」と腑に落ちたり、逆に「違うかも」と違和感を感じたりすることがあります。

例えば、「夢は何か?」と問われて、「私はデザイナーになりたい」と口に出してみたとき、その瞬間、どこか心がざわざわして、「いや、本当は違うかな?」と問い直すことがあります。

頭の中で考えているだけでは、この感覚には気づけません。でも、言葉にしてみると、その思いがどれくらい熱いのか、または冷たいのかを感じることができるんです。

ただ、このプロセスは一人ではできません。他者の存在があってこそ成り立つものです。誰かと話すことで、自分の中にある答えの解像度が上がります。対話を通じて、自分の本当の気持ちに近づくことができるんです。それが、自分を知るために一番大切なことだと思います。

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旅人が地域にもたらすもの

「セルフウェルビーイング」プランを予約したゲストがこの島に来る理由には、何かを期待し、何かを得たいという思いがあるはずです。たった3日間の短い時間で、人が変わり、何かを得るのは本当にすごいことです。

その変化の瞬間に関われることは、島で生きる私たちが共有する大きな価値だと思います。

この島に長く住んでいると、その特別さが日常の中に埋もれがちですが、ゲストの視点や変容を見ることで「この島にはこんな力があるんだ!」と、地域の人々にとって島の持つ力や価値を再認識するきっかけになります。

Entôスタッフにとっても、ゲストとの触れ合いがモチベーションにもつながり、地域に良い循環を生み出すと信じています。

足し算ではなく、引き算の旅を

今の時代は正解がないことが多く、その分だけ行き方に迷いやすいと感じます。だからこそ、この旅では正解を示すのではなく、自分と向き合う時間を何より大切にしています。

答えは時代によって変わります。でも、問いには一生残る力があります。3日間の滞在で答えが見つからなくても、焦らないでください。その問いは心の中に残り、きっと日常のふとした瞬間に新しい気づきをもたらしてくれます。

問いに答えるのは、足し算ではなく引き算に近いものです。この島での時間を通じて、必要以上に抱えていた情報や知識、自分を守るための道具をそっと手放して、身軽になって帰っていただけたら嬉しいです。そして静かな灯火を胸に、新しい一歩を踏み出してほしいと思います。

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― Text ―
佐藤 奈菜(さとう なな)
北海道札幌市出身。アメリカで数年を過ごし、代表の青山と同郷であることなどからEntôや海士町に興味を抱き、帰国後2022年に移住。日々の暮らしの中で写真と言葉を紡いでいる。現在は主にマーケティング事業を担当。葛藤や悩み、楽しいことやチャレンジを惜しみなく全身で受け止め生きる、情緒的で柔軟な姿勢を大切にしている。

― Editing ―
小松崎 拓郎(こまつざき たくろう)
エディター。合同会社エドゥカーレ代表。茨城県龍ヶ崎市出身。渡独生活を経て、石見銀山に抱かれる町・島根県大森町で暮らしている。家族は妻と鶏二羽。

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